果実の酒の提供がだめな理由を解説してみる

果実酒の提供なぜダメ? 北海道・ニセコのペンション
2007年05月16日15時16分

 北海道ニセコ町のペンションが自家製の果実酒を宿泊客らに有料で提供していたところ、札幌北税務署から酒税法違反に当たるとして、没収・廃棄処分の行政指導を通告されていたことがわかった。27年前の開業当初から続けており、ノウハウ本も出しているオーナーの池田郁郎さん(53)は「同様の提供はあちこちで行われている。実態に合わぬ酒税法を考え直すべきで、自ら廃棄はできない」と困惑している。
 池田さんが造っているのは一般の梅酒と同様に果実を焼酎などに漬け込んだ飲み物。「どぶろく」などと違い、アルコール醸造はしていない。しかし、酒税法はこうした果実酒でも、自分や同居家族以外の他人に提供すれば、有償、無償を問わず違反と定めている。
 ただ、実際には他人に分けたり、商売に利用したりする人は多い。池田さんはナナカマドやライムなどで造った100種余りの果実酒をワイングラス1杯300円で提供してきた。そのことを話題に地元テレビにも時々出演していた。
 池田さんは「ホームページなどで果実酒の話題を掲載していたので、チェックされたのかも知れない。だが、世の中の実態に合わない法律こそ見直されるべきだ」と納得しきれない様子。一方の札幌国税局は「造るには製造免許が必要」とし、同ペンションを特に行政指導した理由については「個別案件にはノーコメント」としている。

 「なぜだめ?」と聞かれても、「法令で許されてないから」としかいいようがないけど、背景をちょっと解説。
 まずは当局の見解。
消費者が自宅で梅酒を作ることに問題はありますか。
旅館で自家製の梅酒を食前酒として提供することに問題はありますか。
 酒は酒税法などによって細かく分類されていて、分類ごとに税額が違っている。税務当局としては「販売(課税)時と飲用時の分類が違うのはとれるはずの税のとりっぱぐれになるのでよくない。特に、安い税額で買ったものが高い税額と同等になるのはよくない」と考える。そのため、「酒を水以外のもの(他の分類の酒も含む)と混ぜるのは酒を造るのと同じとみなす(みなし製造)。したがって製造免許がなければやってはいけない」ということになっている。違反は密造、脱税というおどろおどろしい名前の罪に問われる。
 梅酒というのは焼酎をリキュールに変化させるわけで、これは税務当局にとってはけしからん行為で、かつては全面的に違法だった。しかし、実際は世間一般でおこなわれていたので、それを追認する形で、家庭用に限り特別に許可したという事情。
 それではカクテルを作って提供するのも違法かというと、これにも例外規定がある。酒税法第43条第10項

10  前各項の規定は、消費の直前において酒類と他の物品(酒類を含む。)との混和をする場合で政令で定めるときについては、適用しない。

 ということで、作り置きしていない限り問題はない。
 かつては焼酎とリキュールは大きな税額の開きがあった。もちろんリキュールの方が高かったので、果実を漬けこむということは「焼酎の税額しか払っていないのに、税額が高いリキュールと同等の価値となる」ということだった。ところが、いまや蒸留酒系の酒に関しては、アルコール度数あたりの税額はほぼ同じになっている。つまり実質取りっぱぐれはほとんどなくなってしまった。
 となると、そのうち税務当局も態度を軟化させてくる可能性もある。摘発ではなく「捨てるように指導」というやさしい態度もそういうところを反映しているのかもしれない。改正運動が効果を上げるかもしれない。あくまで推測、想像だけど。
 とはいえ、今は明らかに違法であることには間違いがないので、やるなら税務当局とけんかする覚悟が必要。