鳥越俊太郎はなぜ非難されたのか

 鳥越俊太郎が「根っからの悪人ではないと思う」と発言して非難を浴びたって話を最初聞いたときには「ある人物を『根っからの悪人』と断言して非難できるほど立派な人なんか、あんたらは」とか思った。

<テレビウォッチ>大阪・梅田の交差点で30才の会社員を車で3キロ引きずって死亡させた、ひき逃げ事件でホストの男(22)が逮捕された。井口成人リポーターが、逮捕までの経過を報告、スタジオ陣のコメントに移る。鳥越俊太郎の発言が総反発を受けた。
根っからの悪人ではない

「根っからの悪人ではないと思う。悪人ととらえて見てこの事故を考えると違ってくる。酒を飲んでいる、免許がない、警察に捕まると大変なことになる、というので逃げる心理、認めるわけではないけど、そういう心理に人間がなることはあるかもしれない」

「問題は、死ぬかもしれないと思って運転していたのか、それを警察、検察の調べの中で言わされたのか。殺人罪に問えるか問えないか、裁判でも分かれ目になるところで、そこは、まだよく分からない」――鳥越が本当に言いたかったのは、おそらく後半だろうが、それにしても前段が刺激的すぎた。

まず、白石真澄が「鳥越さん、飲んでなければ正常な判断ができたかもしれないんです。飲んで乗る、根っこの部分に問題がある」と声を上げる。

井口も「車を運転しているときに犯罪を起こそうとか事件を起こそうと考えている人間はいない。起きたときに殺人者になる」と同調。

江上剛も「福岡の事件でも、真面目な市役所の職員だったかもしれないが、飲酒運転して助けずにお子さんたちを殺してしまった。酒を飲んで運転してはいけない」と言う。

石丸幸人は「3キロ引きずることは絶対ない」と、悪質さを強調。

赤江珠緒まで「悪人といっていいと思います」とした。

こうなると、メインコメンテーターもかたなしで、気の毒なくらいだった。

 全然噛みあってなかったようで。鳥越俊太郎は「根っからの」をつけて論じているのに、他の人はその部分をすっとばして「悪人かどうか」だけを話している。

 とはいえ、他のスタジオにいた人とか、あるいは掲示板やblogで鳥越俊太郎を非難した人の感情ってのは素直なものだと思う。結局のところ、井沢元彦がよく指摘しているような「不幸な死に方をした人はたたる」ってことが無意識に頭の中にあるんだと思う。たたられないようにするには祀ること。交通事故の現場にある花束なんかその一例だろう。もうひとつのたたられないようにする方法は、不幸な死に方をさせた方を不幸な目に合わせる、それができなければ言霊の力を借りて悪しざまにいう、罵る。
 今回の件は、スタジオが、というか世間全体が言霊モードに入っていた中で、一人だけ論理的発言モードに入っていたためだといえる。性根がどうとか更生の可能性がどうとかそういう話はすべてすっとばしたうえで、容疑者を罵ることが最優先される場だったんだろう。というか、今日本中がそんなモードなわけだけど。
 空気よりも論理を優先するあたり、ある意味さすがだと思う。場に流されていてはジャーナリストは務まらない。



以前に書いた関連するネタ。
結局たたりが怖い - パンクはいつも突然に
http://d.hatena.ne.jp/doroyamada/20080611/1213187758