噛み合わない話、というか、わざと噛みあわないようにしている話

橋下徹氏:米軍岩国基地移転の住民投票発言で反論「批判は机上の憲法論」

 大阪府知事選に当選したタレントで弁護士の橋下徹さん(38)は3日、山口県の米軍岩国基地への米空母艦載機部隊移転を問うため実施された住民投票を巡る発言が、憲法学者らの批判を招いていることについて「机上の憲法論しか知らない学者にとやかく言われたくない」と反論した。福岡市で報道陣の取材に答えた。

 橋下さんは先月31日、岩国市長選に出馬した移転容認派の福田良彦氏(37)への応援ビデオ収録後、「防衛政策に自治体が法律上の手続きを使って異議をさしはさむべきではない」などと発言した。 これに対し、憲法学者らからは「法律家とは思えない発言だ」「基地問題は生活問題であり、住民には意見を言う資格がある。憲法が認めた言論の自由だ」などと批判が相次いでいる。

 橋下さんは発言の真意について「住民の意思を無視しろとは言っていない。何でもかんでも住民投票をやってしまえば、多数意見だけに従って政治を動かさなければならなくなる」と強調。「間接代表制では、住民の意見をくみ取り、選良である政治家が決断すべきだ」と説明した。

 さらに「仮に過半数が賛成しても、市長はその他の事情を踏まえて決断すべきだ。法的拘束力がないなら、経費面からも住民投票のような手段を取るべきでない」と持論を展開した。【木下武】

毎日新聞 2008年2月4日 大阪朝刊

 憲法学者のいうことが机上論かはどうかはおくとして、橋下さんのいっていることはとってもまともだと思う。この記事も、橋下さんの主張を正しく伝えている。ところが、同じネタでもこんな記事を作ることもできる。

橋下節に疑問の声「あんたこそ憲法学べ」 岩国住民投票
2008年02月03日11時38分

 米空母艦載機移転をめぐり06年春に山口県岩国市が実施した住民投票に対する橋下徹・次期大阪府知事の発言に、憲法学者政治学者らが首をかしげている。弁護士でもある橋下氏は、反論した前岩国市長の井原勝介氏を「憲法を勉強して」と痛烈に批判したが、「橋下さんこそ不勉強では」との指摘も出ている。

 橋下氏の発言が飛び出したのは1月31日。3日告示の岩国市長選で艦載機移転容認派が推す前自民党衆院議員の福田良彦氏を応援するビデオ撮影に応じた後、「防衛政策に自治体が異議を差し挟むべきではない」「間接代表制をとる日本の法制度上、直接民主制住民投票の対象には制限がある」と持論を展開。井原氏が「国民が国政にものを言うのは当然」と反論すると、1日に「憲法を全く勉強していない」などと再反論した。

 橋下氏の発言に対し、小林良彰・慶大教授(政治学)は「この種の住民投票には法的拘束力がない。住民の意思の確認・表明なのだから、それを憲法が制限することはあり得ない」と指摘。「防衛は国の専権事項だが、基地問題は地元住民にとって生活問題だから、意見を言う資格がある。それは憲法が認めた言論の自由だ」と述べ、「橋下さんこそ憲法を勉強した方がいいんじゃないか」と皮肉った。

 小林節・慶大教授(憲法)は「橋下さんは憲法を紋切り型に解釈しているのではないか」と首をひねる。「地域の問題について住民の声を直接聞いて、その結果を地方自治体の意向として国に示して実現を図っていい、というのが憲法の考え方だ」と言う。

 奥平康弘・東大名誉教授(憲法)は「法的拘束力のない住民投票の是非について、わざわざ憲法を引き合いに出すこと自体が論外」と突き放した。「弁護士が『憲法』と言えば、いかにも説得力があるように聞こえるが、政治家として政治的な発言をしたまでのこと。人びとの注目を集め、目的は達成したんじゃないのかな」と冷ややかに語った。

住民投票めぐり異論反論 井原・前岩国市長と橋下氏
2008年02月03日

 米空母艦載機移転の是非が問われた06年春の山口県岩国市の住民投票をめぐり、前市長の井原勝介氏(57)と次期大阪府知事橋下徹氏(38)の「場外乱闘」が過熱している。弁護士の橋下氏は「憲法を勉強して」と井原氏を批判したが、学者からは「橋下さんこそ不勉強」との指摘が出ている。

 発端は1月31日。3日告示の同市長選で、移転容認派が推す前自民党衆院議員の福田良彦氏の応援ビデオに出演した橋下氏が「岩国の住民投票には反対」と発言。翌1日、対立候補の井原氏が「国政にものを言うのは当然」と反論すると、「憲法を勉強してほしい」とやり返した。

 橋下氏の発言について小林良彰慶大教授(政治学)は「この種の住民投票には法的拘束力がない。住民の意思の確認・表明なのだから、憲法が制限することはあり得ない」と指摘。小林節慶大教授(憲法)も「住民の声を直接聞いて、その結果を地方自治体の意向として国に示して実現を図っていい、というのが憲法の考え方だ」。

 奥平康弘東大名誉教授(憲法)は「弁護士が『憲法』と言えば説得力があるように聞こえるが、政治的な発言をしたまで。注目を集め、目的は達成したんじゃないのかな」と冷ややかだ。

 一方、橋下氏が支援する福田氏は2日、「防衛政策という国の問題を市に持ち込み、住民投票で住民の対立をあおるべきではない」とのコメントを出した。

     ◇

 橋下徹氏と井原勝介氏の発言要旨は次の通り。

 《橋下徹氏》 国政の防衛政策に関し、地方自治体が異議を差し挟むべきではない。市長が国にものを申せばいいのであって、住民投票という手段を使うべきではない。憲法が間接代表制という建前をとっている以上、直接民主制住民投票の対象も絞られるべきだと思う。(井原氏は)もう少し憲法を勉強していただきたい。

 《井原勝介氏》 住民投票は議会で成立した条例に基づいて行われた。議会制民主主義を補完する大切な制度だ。主権者の市民、国民がものを言うのに何の制限もないのは憲法の大原則。もちろん住民投票は国策を規定できない。住民の意思を国に届ける一つの方法として住民投票があるだけだ。逆に(橋下氏が)憲法を知らないのではないか。

 橋下さんの「法律上の手続きを使って」という、極めて重要なフレーズが朝日新聞の記事からはすっぽりと抜け落ちている。わざとなのかアホなのかは不明。このおかげで「地方から政府に意見を言う手続き」のことを述べているのに「地方から政府に意見を言うことの可否」の話になっていて、全然噛みあわなくなっている。

 ついでに、もう一つ、毎日新聞のまともな記事。

岩国基地移転:愛知県知事が橋下徹氏の発言に疑問呈す

 「国の方針に対して、地方自治体もすべて唯々諾々とのみ込むのはおかしい」−−。米空母艦載機部隊の岩国基地移転の是非を問う山口県岩国市の住民投票(06年)について、大阪府知事選に当選した橋下徹氏が「防衛政策に関して、自治体が法律上の手続きを使って異議を差し挟むべきでない」と発言したことに対し、同じ弁護士出身の愛知県の神田真秋知事が4日の定例会見で疑問を呈した。

 神田知事は「住民投票は民主主義で重要な手段の一つ」と強調したうえで「地方として国の方針に納得できないことも当然あり、意思表示することもいいと思う」と述べた。一方で「私も弁護士から(愛知県一宮市長になり)市行政に入ったのは38歳でした。お互い地域のために頑張っていきたい」とエールも送った。【秋山信一】

 ちゃんと「法律上の手続きを使って」というフレーズが入っている。さらについでに、asahi.com内を「橋下 法律 手続」というキーワードで検索しても0件。